『サロメの断頭台』
夕木春央
単行本
書き下ろし
四六ソフトカバー
2024年3月12日 第1刷発行
盗作犯を探し出せ。
油絵画家の井口は、元泥棒の蓮野を通訳として連れて、祖父と縁のあったオランダの富豪、ロデウィック氏の元を訪ねた。美術品の収集家でもあるロデウィック氏は翌日、井口のアトリエで彼の絵を見て、「そっくりな作品をアメリカで見た」と気付いた。
未発表の絵を、誰がどうして剽窃したなのか?
盗作犯を探すうちに、井口の周りで戯曲『サロメ』に擬えたと思われる連続殺人が発生して__
本書は、大正時代の画壇を背景に描かれた本格ミステリである。『サロメの断頭台』の意味は最後に判明するが、それは謎が全て解かれる時である。
終始陰鬱な作品(個人的にそう読めた)であり、様々な事象に暗い影がかかっているような雰囲気を醸し出している。本作は、最初は画伯者を探す単調な内容に終始するが、殺人事件が起こると複雑な背景が見え隠れして、次第に読書をのめり込ませていく。
探偵の役割を与えられた井口だが、彼は、様々な謎に振り回され、探偵を何度も投げ出そうとするが、何故か踏みとどまる。
天才芸術家の自殺に始まり、謎の舞台女優、盗作事件、贋作事件、そして戯曲『サロメ』の見立て殺人。様々な謎が絡まり合い複雑な様相を呈するが……。
結末や推理に関しては語らないが、如何にも作者らしい結末の付け方だとだけ言っておこう。最初が単調なだけに、読み進むのが辛く感じるかもしれないが、最後まで読んで欲しい。単に殺人劇を読ませるだけでなく、人間の卑怯さ、卑劣さをとことんまで詰め込んだ考えさせられる作品である。