『血腫 「出向」刑事・栗秋正史』
田村和大
本書は書き下ろしです。
2019年2月20日 第1刷発行
2023年8月17日 第2刷発行
「脳の血腫などの特定の三徴候が出た場合、その幼児は被虐待児である」。堀尾雄次は子どもに三徴候があったことから、虐待を疑われて警察に連行された。雄次は容疑を否認。捜査に当たるのは、永久出向制度で警視庁から故郷に戻ってきた刑事・栗秋と若手の細井。栗秋の能力を疑う細井だったが、栗秋は上層部の意向を無視して、血腫について捜査を進める。「出向」刑事が、医療業界の闇を暴く!
本書は、大変に面白い警察ミステリーである。主人の栗秋はある事情があって郷土に出向した変わり種で、築紫警察署生活安全課の細井にでさえ、その能力を疑われている。
しかし、「警視庁捜査一課の落ちこぼれ」と自虐ネタを言う栗秋は、捜査において能力を発揮する。この作品の読み所は、幼児の血腫が虐待でできたものか否かの判断である。
以前日本でも流行ったSBS(揺さぶられっ子症候群)を根拠に強硬に堀尾を被告にしようと躍起になる上層部の意向を無視し、栗秋は捜査を続ける。そして意外な真実に辿り着く。真犯人も意外な人物であったし、そこに至るまでの過程も楽しめる秀作。