『ナースの卯月に視えるもの』
秋谷りんこ
文春文庫
あとがき
2024年5月10日 第1刷
2024年5月30日 第3刷
創作大賞2023(note主催)「別冊文藝春秋賞」受賞作者
完治の望めない人々が集う長期療養型病棟に勤める看護師・卯月咲笑。ある日、意識不明の男性のベッド脇に見知らぬ女の子の姿が。それは卯月だけに視える患者の「思い残し」だった__。彼らの心残りを解きほぐし、より良い看護を目指したいと奔走する日々が始まった。ナースが起こす小さな奇跡に心温まるお仕事ミステリー。
本書はnoteに投稿されていた作品で、元看護師の著者のデビュー作にもあたる。
卯月は、ある出来事を境にして患者の「思い残し」を視ることが出来るようになった。
本当の良い看護とは何か?本書は読者に何度も問いかけてくる。患者の「思い残し」を解決することは、本当に患者の為になるのか?卯月は、常に自分自身に向かって問いかける。あることが原因で、それがより良い看護には繋がらないと悟る。
そういった意味で、本書はミステリー的な部分はあるのだが、それが逆効果になる場面もあり、作品により深みをもたせるようになっている。一種の桃源郷を目指す物語ではあるが、それが本当にあるのか?は、正直私にも解らない。「ある」とも言えるし、「ない」とも捉えられる。
確かに「救い」はあるが、それがこれからも続くとは限らない。長期療養型病棟を舞台に選んだのも、「死」に限りなく近い重篤患者を描く必要があったからではないか?
私には、そのように読めた。